物語は、キャラクターによって作られる。
実はこれまで、あまり深く触れずに来たことがあります。それはキャラクター(=登場人物)というものについてです。キャラクターというものについて考えていくと、脚本を書く際に、大きくわけて2つのパターンがあることに気がつきます。
- ストーリーに合わせてキャラクターを配置していくパターン
- キャラクターのコミュニケーションからストーリーを生み出していくパターン
断言しますが、脚本を書く上では必ず2番です。
誤解のないように言っておきますが、大ざっぱな話の流れなどは、当然先に考えておく必要があります。
それはキャラクターを適切にコントロールする上で重要なことです。
さて、ではなぜ2番なんでしょうか? 簡単なことです。脚本というものは、基本的に人と人とのコミュニケーションを描くものだからです。ですから、物語というものは、人と人とのコミュニケーション、ぶつかり合い、心の交流から生まれてこなくてはいけないのです。先にストーリーを作って、それに無理やりキャラクターをはめ込んでいってはいけないのです。
もちろん、先にストーリーを作ったって、ちゃんとコミュニケーションがとれているなら良いんです。慣れてくると、キャラクターとストーリー、両方を同時に考えることができるようになります。ですから方法論としては、1番はありです。結果的に2番のようになっていればいいだけのことです。
ですが、書き慣れていないうちはまず間違いなく失敗します。ストーリーに合わせて、キャラクターを都合よくねじ曲げてしまうからです。そういう脚本は、上演してみれば一発で分かります。役者たちも一貫性のないキャラクター像とセリフに、困り果てることでしょう。
極端に言えばこういうことです。
物語はキャラクターが作るものである。
脚本家がやるべきは、きちんとした個性を持ったキャラクターを創造することです。それができれば、脚本家が何もしなくても、キャラクターたちは勝手にぶつかり合い、心通じ合い、物語を進めていってくれるでしょう。もし、きちんとキャラクターを作ったのに、物語が生まれてこなかったとしたら、それは作るべきキャラクターを間違えているのです。
つまり脚本を書く上で重要なのは…
物語を生み出してくれる、ぶつかり合えるキャラクターを創造すること。
ということになります。
主人公の流れが、物語の流れを作る。
物語の流れを生み出すのは主人公です。というよりも、それを生み出しているから主人公と呼ばれるのです。だから、どんな脚本も必ずきちんと主人公足りえているかというと、そんなことはありません。僕が劇作家コースで一番よく見る過ちの一つが「主人公が何も変化しない」脚本です。
そんなことがあるのか、と思われるかもしれませんが、よくあります。正確に言うと「抱えている問題を最後に解決するまで、迷い続けるだけで何も変化しない」脚本です。
主人公は常に変化し続けなくてはいけません。主人公が悩み、苦しみ、喜び、救われ…そういう流れがそのまま物語の流れとなるのです。(そしてもちろんその横には、主人公を悩ませ、苦しませ、喜ばせ、救ってあげるキャラクターが必要です)主人公の気持ちが盛り上がれば、物語も(つまりは芝居もお客さんも)盛り上がるし、主人公が落ち込めば物語も落ち込みます。
変化をするということは、何かを選択し続けるということです。ただ周りに影響されるだけではいけません。ただ悩み、迷うだけではいけません。常に何かを選択し、その結果として時に過ちを犯し、時に決断をし、時にだれかを救うのです。
ちょっとした反応が、芝居を面白くする。
ここまでは芝居におけるマクロな視点での話をしてきましたが、少し細かいところにも目を向けてみましょう。
- あるシーンで、Aさんが友人のBさんにオススメの店につれて行かれました。
- しかしそこは、見た感じボロい、小綺麗とは言えない店でした。
- そこで「ちょっと嫌だな」という反応をしました。
さて、この時Aさんはどんな反応をするでしょうか。単にそのボロい店に抵抗があるといっても、どの程度の抵抗があるのでしょう?
- 絶対あり得ない!
- えー…まあ、つきあうけど…
- 別に良いけど、今日は気分じゃない。
それによって、当然反応は違いますね。そしてそういう「嫌だな」という感じを、どういう風に表に出す人なんでしょうか?
- 感情はストレートに表に出す。
- そういうことはなかなか言えない。
- 絶対見せない。
- 普段はストレートだけど、今日はBさんに悪い事をしちゃったから、黙ってる。
Bさんとの関係も重要ですね。
- 何でも言い合える仲。
- まだ親しくなって日が浅い。
- 前は仲よかったけど、最近疎遠になってた。
- ケンカ中。
これらを組み合わせると、いろんな人物像が浮かび上がってきますね。一つ、組み合わせて考えてみましょう。
- <関係>Bさんとは何でも言い合える仲。
- <性格>Aさんは感情をストレートに出すタイプ。
- <抵抗度合い>こんな店は絶対あり得ない。
だったら、反応としては「え、うそ!こんなとこ絶対あり得ないんだけど!」みたいなセリフになるかもしれません。
- <関係>Bさんとはケンカ中。
- <性格>Aさんはそういう言うことをなかなか言えない。
- <抵抗度合い>こういう店も別に良いけど、今日は気分じゃない。
だったら、「……」と無言で抗議するかもしれません。
ストーリーを先行して考えていると、こういった細かい部分は深く考えずに、ストーリーにとって都合の良いように行動させてしまいがちです。しかしながら、こんな非常に大ざっぱな例でも、Aさんのキャラクターはずいぶんと違ってくることが分かると思います。
キャラクターのイメージがきちんとできていると、こういうところで迷わず行動させることができるはずです。そして、意外にもこういうところが、脚本を面白くするきわめて重要な部分なのです。全体の流れが面白いことはもちろん重要ですが、その全体像をお客さんがきちんと見てくれるかどうかは、瞬間瞬間にお客さんを飽きさせることなく、楽しませているかが重要だからです。そのためには、こういう細かい所作を、きちんと詰めてやる必要があります。
キャラクターというのは、深めれば深めるほど、物語を面白くしてくれるものなのです。
キャラクターは、最初から全部決めつけない。
と、ここまで書いてきたのを読んでいると、キャラクターは最初にきっちり作り上げておかないといけない、と思われるかもしれません。しかし、そうではありません。前項から散々書いてきたこと、「漠然と」がここでも生きてきます。最初からカチカチに設定を決めすぎると、せっかく生まれてくるはずだった新しい発想を奪ってしまいます。
物語を生み出していくための、最低限の大枠だけ決めたら、あとは書きながら決めていきましょう。あるセリフを書くごとに、「こういう時、このキャラクターはどう考えるかな」「どういう反応をするかな」ということを、常に考えながら書いていくのです。そうすれば、どんどんキャラクターは深みを増していくはずです。
ただし、重要なことは、
ストーリーに合わせるために、キャラクターを破綻させないこと。
キャラクターにできない行動は、絶対にさせない。物語をある方向に持っていきたいのなら、どうしてもそういう方向にしかいけない状態に、キャラクターを追い込んでやることです。その状態の追い込むためには、一体どのキャラクターのどんな行動があればいいのか。それを考えるのです。物語は、あくまでもキャラクターから生まれなくてはならないからです。
そして、もしキャラクターを深めていくうちに物語を変えたくなったら、またプロットに戻りましょう。
必要ならば、役割やテーマに戻りましょう。これは決して遠回りではありません。キャラクターが深まった分、より濃密なプロットが作れると思います。そしてその分、脚本を書くのは楽になるはずです。
今回も、いろんなことを書きましたので、ざっくばらんにまとめておきましょう。
- 物語は、必ずキャラクターのコミュニケーションから生まれてくる。
- その中でも、物語全体を動かす人が主人公となる。
- キャラクターは最初に決めすぎず、書きながら決めていく。
- キャラクターは深めれば深めるほど、反応させればさせるほど、脚本は面白くなっていく。
以上です。