物語とは何か?

まずはじめに、物語とは何か?ということを考えてみましょう。
そんなことは分かっている、と思われるかもしれませんが、実はこれが演出をやる人間が、最初にきちんと理解すべきポイントです。なぜなら、経験の浅い人ほど戯曲を単なるセリフの羅列心情の連鎖キャラクター同士のコミュニケーションに過ぎないと考えてしまいがちだからです。

それは戯曲(=物語)のほんの上っ面に過ぎません。なぜなら物語には、必ず寓意(=隠された意味)があるからです。このことについては「脚本理解」の項で詳しく解説したいと思いますが、まずはここで概要を理解してもらいたいと思います。

演出の全過程

ここで、演出と言われる物語の具現化の全過程をザッとまとめてみましょう。
各行程において注意すべきポイントを、簡単にまとめてあります。

脚本の選定

これを演出の仕事とするかどうかは、人によると思います。しかし演出をする人間が作品の選定に対し、発言権を持っていることは重要だと思っています。
なぜなら、その演出者が考えたこともないような思想を持った脚本を演出することは、とても難しいからです。

脚本が脚本家の人間性を反映するように、演出も演出者の人間性を反映します。
脚本と演出者の人間性が理解しあえないものであるならば、おそらくその作品のできばえは残念なものになることが容易に想像できます。

脚本の理解

脚本理解は、最初の仕事

上演する脚本が決まったら、演出者が真っ先にやらなくてはならないことが、その脚本の理解です。

なぜ、脚本理解が必要なんでしょうか?
稽古をしながら決めていけばいいのではないでしょうか?

残念ながら、そうはいきません。なぜなら稽古に入る前から、すでに物語の具現化は始まっているからです。

物語には伝えたい意図(=思想)があります。それを読み解くことの重要性は、先に述べた通りです。
ですが演劇は一人で作るものではなく、たくさんの人間で作るものです。俳優は俳優で、スタッフはスタッフで、それぞれの意思を持ってその物語を具現化しようとするでしょう。優れた人ほど自分なりに物語を理解し、自分なりの表現をしようとするものです。

配役をする。

キャラクターの根底にあるもの

登場人物にどんな俳優をあてるかというのは、物語を具現化する上でとても重要なポイントです。
もちろん、それっぽい人を選ぶ、ということに変わりはないのですが、注目すべきポイントがいくつかあります。

もちろん分かりやすいのは、見た目のイメージです。これはあまり解説の必要がないでしょう。ただ一つだけ間違えてはいけないのは、見た目のイメージが重要視されるのは、ある役について考える場合というよりも、役の組み合わせを考える場合においてです。

それはなぜでしょうか。
配役においてもっとも重要なのは、その役の持つ思想を表現しうる肉体を持っているかどうか、だからです。

立ち稽古〜動き

演劇にもキーフレームがある。

次にやるべきことは、舞台上の動きを作ることです。
キャラクター個々人の細かい動作(身振り、仕草、いろんな言い方があります)ではありません。舞台上に十人の人間がいるのであれば、その十人全員が舞台上のどこに配置され、どのように動いて次の配置に移動するのか、ということです。

アニメーションでは、動作の重要なポイントを描く原画(キーフレーム)があり、その原画間をアニメーターたちが埋めていく…らしいです。
僕は演劇においても、このキーフレームがあると考えています。

立ち稽古〜細部

思想が正しければ、感情はなんでもいい。

稽古とか、演出とかいわれて、みんなが想像するのがこの部分です。細かいテクニックについては、優れた教科書がたくさんありますので、ここでは述べません。ただいくつか、注意しなくてはならないポイントを説明したいと思います。

まず演出は、キャラクターの心情や生理にフォーカスしすぎないということです。
これは「物語とは何か?」のところでも述べましたが、そこを整理し、役として成立させるのは、役者の仕事なのです。人の仕事にズカズカと踏み込むものではありません。

演出者が描くべきは“思想”であるとは、これまで何度も言ってきました。
であるならば、あるセリフを笑って言おうが、泣いて言おうが、怒って言おうが、それを通して見えてくる思想がズレていないなら、どれでもいいのです。

演出の心構え

演出は、3つのパートにわかれる。

ここまで、演出する上で実際に行う過程を順番に見てきました。
すべては、観客に伝えるため、であることを理解していただけたでしょうか?

ではここまで述べてきたことを、3つのパートに分けてみたいと思います。

1つ目は、脚本理解です。
2つ目は、観客の成立(=観客の意識をコントロールし、脚本の内容を観客に正しく伝えること)です。
3つ目は、そのために俳優の演技を成立させることです。

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