先ほど、物語は人間を描くもの、という話をしました。そのためには、人間という存在が、どのようなものであるのかを知らなくてはなりません。物語が浅く、薄っぺらくなってしまう要因のひとつには、人間の上っ面の行動だけを描いてしまうことにあります。この人物は“なぜ”このように考え、“なぜ”そのように行動したのか。その行動原理を深く突き詰めることは重要です。そして、それを知るための学問が、哲学です。
哲学は人物を書くヒントをくれる
近年は、哲学を漫画で解説してくれる書籍がたくさんあるので、哲学未体験の方はさらりと読んでみるとよいでしょう。何千年も前から、人間は同じことをひたすら悩んでいることに気づくと思います。
「愛ってなんだ?」とか、「人を憎む心はどこから来るのか?」みたいなことを、古代ギリシアの時代から大まじめに議論しています。そして歴代の著名な哲学者たちがそれなりに答えを導き出してはいるのですが、決してそれが正解というわけではありません。だからこそ「なぜ」はいまだに続いているわけです。
では、それが物語を作る上で、何の役に立つのか?
はい、とても役に立ちます。なぜなら、人間の行動原理が分かってくるからです。自分の身の回りにいる人間が、あるいは自分が、
- “なぜ”このような物言いをするのか
- “なぜ”こういう態度をとるのか
- “なぜ”それをしたのか
そうした“なぜ”を常に問いかけ、自分なりの答えを見つけることができれば、それを作品の中に描くことができるようになります。作中の人物たちを、きちんと行動させることができるようになります。そうでなければ、作者はキャラクターを自分の都合の良いようにねじ曲げて、ただの操り人形にしてしまうでしょう。
優れた作品の登場人物たちは、皆、作品の中で生きています。そのために、人間への理解は欠かせません。面倒とか小難しいとか思う前に、ちょっと触れてみてください。びっくりするくらい、書くものが変わります。