2-4. 主人公の目的 – 表向きの目的と内面の目的

さて、パートごとの役割が見えたところで、今度は主人公の内面にフォーカスを当てたいと思います。物語とは、人間が変化していくものだ、ということは前述しました。そのために、主人公の目的を明確にします。

主人公の目的(1) – 表向きの目的

主人公の目的は、大きく分けて二つあります。ひとつは表向きの目的です。これはさらに、物語全体を通して貫かれる一番大きな目的と、そのために必要な今現在の目的に分けられます。

  1. 一番大きな目的(物語全体を通して変わらない
  2. 今現在の目的(常に変化し続ける

例えば前述のプロットの少年の一番大きな目的は「親を殺した人物に復讐すること」であるとしましょう。そのために「何としても生き抜く」という目的が生まれ「腹を満たす」という目的が生まれ、盗みはいけないという意識との葛藤を経て、結果として盗むという「行動」に出ます。

腹を満たし、生き抜ける当てができれば(つまり、目的が果たされれば)、今現在の目的は「相手を探す」という目的に変化するかもしれません。そのために「町のひとに話を聞く」という目的を持ち、そのために「身なりを整える」ことにするかもしれません。ですが、一番大きな目的は変わりません。これは、物語の最後の最後まで貫き通されます。

  1. 一番大きな目的(物語全体を通して変わらない)
    1-1 親を殺した人物に復讐すること
  2. 今現在の目的(↑を達成するため、常に変化し続ける)
    2-1 何としても生き抜く
    2-1-1 腹を満たす
    (達成された場合、↓へ)
    2-2 相手を探す
    2-2-1 町の人間に話を聞く
    2-2-1-1 身なりを整える

主人公の目的(2) – 内面の目的

一方で内面の目的とはなんでしょうか。それは、表向きの目的のために行動するその裏で、心が求めている目的です。

これは、物語の当初は主人公は気づいていません。少年は、頭では「復讐さえできればそれでいい」と考えていることでしょう。しかし、その内面では「愛してくれる家族が欲しい」と思っているのかもしれません。もっと抽象化して言えば「愛して欲しい」だけなのかもしれません。

多くの場合、この内面の目的は、主人公が認識するよりも早く、観客に提示された方が良い期待を生みます。表向き行なっている少年の行動と、少年が本当に求めているものとのギャップに、観客は「どうなるんだろう」と緊迫感を持つことができるからです。

さて、この内面の目的も、二つに分けられます。ひとつは、物語の最初から最後まで変わらない、主人公の本当の望みです。これはとても奥の奥にあるので、なかなか主人公は気づきません。そしてもうひとつは、それよりはもう少し浅いところにある目的(心の望み)です。これは、主人公は薄々感じながらも目をそらしたり、時に向き合ったりして、葛藤の原因となります。

  1. 本当の望み(主人公の欠損から来る/主人公が最終的に手に入れるもの/物語全体を通して変わらない)
  2. 心の望み(葛藤の原因となる/時に変化する)

これは、表向きの目的ほどコロコロ変わるものではありませんが、時に変化が必要です。特に、物語の中ほどで大きな転換を迎えた方が良いと考えています。僕はこれを、物語の中間点と呼んでいます。一行物語でいうところの、2ステップ目です。

例に戻りましょう。「愛して欲しい」が本当の望みであると仮定するなら、当初の心の目的は「死んでしまいたい」かもしれません。復讐のために生き抜くと、頭では考えていても、心は死んでしまいたいと考えている。それが中間点を迎えて「この少女と生きていきたい」と思うようになる。

この転換は、大きければ大きいほど、物語はダイナミックになります。重要なことは、そのどちらも本当の望みとは矛盾しないことです。少年は「愛されたい」という望みを持っているからこそ、その対象である家族を失ったときに「死にたい」と思い、また愛すべき対象ができたときに「生きたい」と思う。

内面の目的は、常に本当の望みから生まれてくるということを忘れてはいけません。

  1. 本当の望み
    1-1 愛して欲しい
  2. 心の望み
    2-1 死んでしまいたい
    (中間点を経て↓へ)
    2-2 この少女と生きていきたい

主人公の欠損

物語の主人公を作る上で、もうひとつ重要な要素に「欠損」があります。完全無欠な主人公が難題を次々と解決して行く物語、というのも爽快ですが、欠損がある方が観客は親しみを感じ、また葛藤を生みやすくなります。

例に戻ります。主人公の少年は、親に愛情なく育てられた(=欠損)としてみましょう。それゆえに、親や家族といったものの愛情を感じたことがない。しかし、それを常識として生きてきたので、自分が不幸だとも思っていない。(が、心の奥底では愛を望んでいる=本当の望み)そして、男はこう生きなくてはならない、という親の教えのままに、復讐を遂げようとしている。
こうしてみると、観客はこの少年が「いかにして愛を知って行くのだろうか」というところに興味を持つことでしょう。

この主人公の欠損は、できうる限り物語の冒頭に観客に提示されるべきです。観客は主人公の欠損を見ると、これをどう補填して行くのか、に関心を持ちます。つまり、この物語がどんな物語であるか、とたやすく理解してくれるのです。

乗り越えるべき壁

さて、主人公の目的が見えてきたところで、この三部構成に僕はひとつ付け足したいと思います。実際には、これは真ん中の一部分なのですが、僕はこれを「乗り越えるべき壁」と呼んでいます。

中間点を迎え、だんだんと自分の本当の望みに近づいてきた主人公ですが、表向きの目的は解決していません。少年は、復讐すべき仇と相対しなくてはならないのです。ここで、両立できない二つの選択肢が突きつけられたとします。あくまでも復讐を遂げるか、復讐をやめて少女と生きるか。

本当の望みに従えば、少女と生きるべきです。
——しかし、それは同時にこれまでの彼の人生を全て捨てることになります。
——でも、愛してくれなかった親の復讐に意味があるのでしょうか。
——いや、愛の存在を知ったからこそ、復讐の道を捨てられないのかもしれません。

表向き望んでいたことを全て捨てて、内面の声に従えるかどうか…。壁は常に、主人公の外にではなく、内面にあるものです。

ざっくりした例を元に、ざっくりした解説をしましたが、ようは「自分自身といかに対決するか」ということです。表向きの目的と、内面の目的の対決、と言ってもいいかもしれません。

いくら内面の目的が強くても、表向きの目的を捨てられないのが人間というものです。この壁を越えるためには、自分の内面に目を向け、欠損を受け入れ、乗り越えなくてはなりません。その乗り越え方が、物語のクライマックスになります。乗り越えられればハッピーエンドを迎えますし、失敗すればバッドエンドでしょう。(ただし、内面のハッピーエンドが、必ずしも外界のハッピーエンドとは限りません。全てを捨ててどん底に落ちる道を選ぶことになるかもしれないのです。たとえ内面は幸福でも)

またこの壁は、必ず自らの力で乗り越えなくてはなりません。だれかの助けて乗り越えてしまっては、物語は価値を失います。

本当の望みにはいつ気づく?

ここで、疑問に思った方がいるかもしれません。では、主人公は自分の本当の望みにいつ気がつくのか、ということです。

これは3つのパターンがあると思います。

  1. 乗り越えるべき壁の前に気づき、それゆえに激しく葛藤するパターン
  2. 壁との対決の中で気づき、正しい選択をできるパターン
  3. 壁を乗り越えたことで気づくパターン

どれも間違いではありません。どれが良いかは、物語全体をどうパッケージングしたいかによります。

流れを整理すると…

  1. 物語の前提条件
    観客(=読み手)に物語に入り込んでもらう、下地を作ります。
  2. キッカケとなる事件
    主人公が日常から一歩踏み出すキッカケとなる事件が起こります。物語のスタートです。
  3. 前半の目的
    主人公は、まず何を目的にして行動するのか?
    (葛藤・選択・行動・変化)
    (1)キッカケとなる事件に対し、どう行動したか?
    (2)その結果、主人公の前に現れた新たな問題は何か?
    (3)それと向き合った時、主人公に起こった変化は何か?
  4. 中間点
    前半の行動を通じて、主人公の内面に変化が生じます。その結果、主人公の目的が大きく転換します。
  5. 後半の目的
    新たな目的を胸に、主人公はどう行動したか?
    その結果、主人公は自分が抱えている問題に直面し、最終的な変化へと主人公は向かっていきます。
  6. 乗り越えるべき壁
    主人公は、自分の内側に秘められていた問題と向き合い、ついにそれを乗り越えます。
  7. 変化した自分
    変化を遂げた主人公は、またもとの日常に戻っていきますが、それは主人公の目にはまったく違ったものとして見えています。

検証する

さて、ここでちょっとプロットを振り返りましょう。主人公の目的や欠損を足していったことで、大元のプロットがそのままでいいのか、微妙になってきました。

親から愛情なく、生き方だけをしつけられてきた少年は、はたして飢えたからと言って泥棒できるでしょうか。強い葛藤の結果手を出した、とも言えますし、復讐の鬼になっていて、些細なことは気にしなくなっているのかもしれません。それともやはり、手を出せずに飢えて倒れるほうがいいのかもしれません。

もっと根底のところでは、「愛して欲しい」という本当の願いと、「復讐をする」という表向きの目的は、はたしてちゃんと対立関係にあるのでしょうか。乗り越えるべき壁として機能するでしょうか。

こういった検証は、常に必要です。そこでズレを見つけたからといって、嘆くことはありません。その度に変えればいいのです。より新しい発想が生まれるごとに変えて、変えるたびに考えて、見直して、また考える。そうやってどんどん物語は良いものになっていきます。

一例として、泥棒問題について、ちょっと検証してみましょう。それぞれのパターンについて、観客に与える印象がどう違うか、考えてみます。

  1. 強い葛藤の結果手を出した
    葛藤が強く見える分、彼の生き方が伝わってきますし、また袋叩きにされたときの哀れさも増すでしょう。
  2. 復讐の鬼になっていて、些細なことは気にしなくなっている
    彼の狂気が印象付けられます。
  3. 手を出せずに飢えて倒れる
    彼は倫理観の強い人間に見えるかもしれません。

どれを選んでも、間違いではなさそうです。
ここで大事なことは、選択するときには必ず「その行動が観客に与えるもの」を考え、それが適切かどうかで判断すべき、ということです。なんとなく、や、好みで選ぶのは非常に危険です。

全体の流れを考える、別アプローチ

ここで以前書いた「脚本の書き方」の中から、「起承転結を考える」という項を紹介します。どんな主人公でどんな物語を作るのか…こういうやり方もあるのです。

2. 起承転結を考える。

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