ここまでで、主人公の初めと終わりが決まり、表向きの目的と内面の目的が定められました。内面の目的は、中間点で大きく変わり、主人公は自身の欠損に気づき、その欠損と対峙しながら、乗り越えるべき壁に立ち向かいます。そして壁を乗り越えて、一つの成長を遂げ、定めていた主人公の終わりに到達します。
何となく、全体の話の流れ(=プロット)が見えてきたでしょうか?
しかし、当然のことながら、主人公は一人で変化していけるわけではありません。別の人物の助けが必要です。それがサブキャラクターです。
サブキャラクターは、主人公のために存在する。
サブキャラクターとは、もちろん主人公以外のキャラクターのことです。ここで注意しなくてはいけないことは、サブキャラクターはあくまでも、主人公の変化を促すために存在する、ということです。
少年に対し、愛情を持って接してくる少女は、少年にどんな変化を促すでしょうか?
- 少女の生きる意欲を掻き立てるかもしれません。
- 心の奥に押し込めていた少年の欠損を呼び覚ますことになるかもしれません。
- 壁に向かい、立ち向かう意欲になることもあるかもしれません。
- 反対に、逃げたくさせることもあるでしょう。
それらはすべて、少年の変化です。少女の行動は、すべて少年の変化のためにあるのです。
全ての行動は、互いの変化のためにある
ここはとても重要なポイントです。物語を進展させるために、主人公に「ある変化が必要である」とするならば、作家は「その変化を起こすために必要な行動」を、サブキャラクターに“意地でも”させなくてはなりません。
なんとなく少年と少女を描いていたら、何となく変化が起きた、のではありません。必要な変化は、必要に応じて作家が起こすのです。そのために、物語の中では、人物の行動は完全にコントロールされていなければなりません。
ところが、ともすると作家はキャラクターに勝手に行動させがちです。それでは非常にまとまりのない物語になるでしょう。くり返しになりますが、登場人物たちは自由に生きているのではありません。観客の期待に応えるため、主人公は必要な変化をし、主人公にその変化を起こさせるためにサブキャラクターは必要な行動をとるのです。
もちろんこれは、主人公に限った話ではなく、サブキャラクター同士でも同じことです。物語の中の全ての人物の全ての行動は、だれかの変化のためにあるべきです。
とはいえ、キャラクターは勝手に走り出す
しかし困ったことに、書いているとキャラクターが勝手にどんどん走り出すことは良くあります。それは悪いことではありません。それだけ、キャラクターの目的や内面がはっきりしているということです。
キャラクターたちが意図通りに動いてくれれば良いのですが、思っても見なかった方向に行くこともあるでしょう。その時は、走るだけ走らせましょう。物語が全然違うところに行ってしまっても問題ありません。書きすぎることは、悩んで書かないことよりもはるかに有益です。
大事なことは、その行動や変化が本当に必要なものであるのか、後からきちんと精査することです。キャラクターがそうやってダイナミックに動いたシーンというものは、カチカチの理屈だけで書いたシーンよりも観客の心を惹きつけるものです。
ですから、走ることは構わない。その分精査をきちんとやる。これが重要です。
以前の「脚本の書き方講座」の中に、キャラクターの人物像を突き詰めて考えることで、かえってキャラクターを自由にし、物語を生み出していく、という、逆の視点で書いた項があります。こちらも参考においておきます。
サブキャラクターは何人必要か
では、サブキャラクターはどれだけいればよいのでしょうか。
前項までで主人公に必要な変化がある程度見えていれば、おのずと何人のサブキャラクターが必要かはイメージできるはずです。主人公の変化の全てを、一人のキャラクターで背負えるはずはありません。主人公を「本当の望み」の方へと変化させていくキャラクターがいるならば、逆方向に変化させるキャラクターもいるでしょう。主人公の変化の数や振れ幅によって、どこをだれに担わせ、どれだけのサブキャラクターが必要か、考えてみましょう。
たくさんの変化を起こさせるキャラクターほど、主人公との関係性は密になり、物語にとって重要な人物になります。逆に変化が少ないキャラクターは、本当にその人物が必要かどうか、再考すべきです。主人公に与える変化が少ない=物語における役割が少ない人物がたくさん出てくると、全体が散漫な印象になりがちです。複数の人物を一人に集約して、役割を増やしたほうがうまく行くことが良くあります。
特に、一見対極にあるような役割を、一人の人物に集約するのは良い手立てです。ただひたすら主人公を後押しするだけの人間よりも、前半は敵対していたのに、後半は後押しするようになったほうが、その人物自身がダイナミックに変化することができるため、魅力的に映ることでしょう。
そうやって主人公にとって必要な変化を考えながら、必要な人物を配置していきましょう。決して、こういう場所だから、こんな人がいそうだな、というような、安易な考えで人物を配置すべきではありません。
ここでも、以前の「脚本の書き方講座」から、物語に必要な役割からキャラクターを考える手法をご紹介しましょう。これはキャラクターを無駄なく配置するために、とても有用な方法だと思います。
サブキャラクターにもストーリーがある
上記のリンク先にも書いてありますが、サブキャラクターも当然、彼自身のストーリーを持っています。サブキャラクターも人間です。主人公と同じように変化します。ただその変化の過程が、主人公のように丁寧に描かれないだけです。時には変化の過程を思い切って削除することで、観客を驚かせ、主人公に大きな衝撃を与えることもあるでしょう。
しかし、だからといって、サブキャラクターの変化の過程を無視していいわけではありません。たとえ観客に見えずとも、きちんと変化の過程を考え、主人公とともに成長させて魅力的にしていくべきです。なぜなら、サブキャラクターが変化し、成長するということは、主人公との関係性がよりダイナミックに変化することを意味するからです。
主人公の描く全体の物語と、サブキャラクターの物語がどうすればうまく絡み合っていくのか、何度も何度も検討してみてください。サブキャラクターの物語が停滞すると、必ず主人公の物語も停滞します。しかし、互いの物語がかみ合えば、何倍もの相乗効果が生まれるでしょう。
キャラクターは変化があるほど魅力的になる、ということを忘れないでください。
他にも注意すべきこと
◇キャラクターは人であり、記号である
もう一点、立ち止まって考えなくてはならないことがあります。それは、そもそもこの物語は、何を観客に与えるために描かれているのか、ということです。 あなたが書くべき物語が何であったか、思い出してみてください。
あなたが描こうとしている物語が「人間の価値は金銭の有無とは別にある」ということであるならば、そこに登場する人物は、例えば「金銭にしか価値を感じない」人物であったり「金銭はないが豊かに生きる人」であったりするでしょう。そしてこの両者が出会った時、「金銭にしか価値を感じない」人物は「人生における価値とは何かを考えている」人物に変化するかもしれません。
これはこの物語に登場する人物たちが「あなたが書きたいもの」にとって、どういう記号であるのか、ということです。例えばこの物語に「飛行機が好きな人」が出てきても、この物語にとってどういう意味があるのか、ちょっとはっきりしません。
キャラクターを配置する際には、その人物がこの物語にとって本当に意味がある人物なのか、記号化して確かめて見るのも大事なことです。ですが、あまりにも記号で考えすぎると人間味が薄れ、ロボットのように行動する頭の硬い人間になりますから、注意が必要です。
◇人物にレッテルを貼ってはいけない
作家はキャラクターをコントロールしなくてはいけません。しかし「このキャラクターはこういうやつ」と決めつけすぎてしまうと、行動やセリフに幅がなくなり、奥行きのない薄っぺらなキャラクターになりがちです。
人間というのは複雑なもので、一つのことを思っても、心の何処かに相反するものを持っているものです。常に「こいつは本当は何を考えているんだろう…?」という疑問を持ち続けてください。