2-6. 物語をおもしろくするもの

プロットの完成

主人公の表向きと内面の目的が決まり、全体の構成が見えてきました。その主人公の変化を起こすためのサブキャラクターの配置も決まりました。サブキャラクター自身の物語も見えてきています。もう、皆さんの中には、自分の書くべき物語と、そのために必要なパーツを持っています。(もしまだなら、ちょっと講座を戻ってください)でもここまで、ずいぶんと論理的に構成を考えてきましたから、ここで一度、観客の視点に立ち返りましょう。

「プロットって?」の項でお話しした「印象の構成」を思い出しながら、この物語で観客が体験するはずのものを順序立ててイメージしてみてください。それが、プロットになります。

まずは最初のシーンから。観客(=読み手)が感じている印象をいっしょに感じながら、主人公とサブキャラクターを動かして、起こすべきことを起こしましょう。ここでは、今までよくやってきた「思いつくまま」ではなく、頭から順番に考えていくのがよいでしょう。観客の感じているものの順番を間違えないためです。

シーンごとに、丁寧に、主人公とサブキャラクターを葛藤・選択・行動・変化させていきます。分からなくなったら、構成を見返して、時に書き換えて、納得のいくまでプロットを練り上げましょう。とても大変な作業ですが、ここで手を抜くと必ず本番の執筆で痛い目を見ます。

すべては、自分が書きたいものを書くためのプロセスです。プロットというものは、自分が何を書こうとしているのか、自分自身が理解するためにあるのです。

書くべきものを書くことと、自由な発想に委ねること

このプロットの章では、こうしなくてはならない、こうあってはならない、というルールをたくさんお話ししてきました。肩の凝る話ばかりだったのではないかと思います。もうちょっと気楽な方法論を知りたい方は、ぜひ時々引用した、 旧バージョンの「脚本の書き方講座」を頭から順番に見ていってください。あちらの方が、すごくシンプルです。

しかし、何が必要かを理解し、常に意識しながら書くことは大事です。ついつい話が広がってしまい、収拾がつかなくなって、訳のわからなくなってしまった脚本を、僕はたくさん見たことがあります。そうならないために、常に冷静な自分を頭の中に持っていなくてはなりません。これは言ってみれば、自分の頭の中に作家と編集者を同時に持つようなものです。不思議なもので、慣れてくると、間違った方向に行きそうになった時にはパタッと手が止まります。これはもう、経験です。

しかし一方で、アイデアというものは柔軟な発想のうちに出てくるものです。あれをしてはいけない、これはしてはいけない、などと考えていては、良いアイデアは生まれません。書くべきものを書くことと、自由な発想に委ねることは、どちらも大事なことなのです。

はじめのうちは、思いつくままに書く、冷静になって推敲する、の繰り返しが良いでしょう。

物語を面白くするもの

物語を面白くするものとはなんでしょうか。もちろん、これは一口に言えるものではありません。観客の好みというものは千差万別だからです。(作家の好みもですが…)だから無数の物語があって良いし、一部の趣味の合う人からだけ、絶対的に支持される作品があったとしても構わないわけです。

ですから、ここではだいたいどんなものにも当てはまる、基本的なものを記しておきます。

変化の大きさ

主人公、サブキャラクターを問わず、人物がどれだけ大きく変化するか、ということです。

初めと終わりはもちろん、物語の過程においても、その振れ幅が大きいほど、物語はダイナミックになります。逆に、変化の幅は小さいけれど、その過程をとても緻密に描くことで心を惹きつける物語、というものもあります。

振れ幅をどう設定するかは、重要な要素ですし、振れ幅によって観客の楽しませ方は変わってくるでしょう。

変化の過程

キャラクターの初めと終わりだけを抜き出してみれば、全く同じ物語というのはいくらでも存在します。しかし、初めと終わりが同じでも、その過程が違えば全く違った物語になります。

「愛を知らなかった男」が「真実の愛に気づく」物語など、この世にごまんと存在しますが、いまだに描かれ続けるのは、ただそういう話が好き、というだけでなく、必死に作家が「変化の過程」のバリエーションを生み出しているからです。(失敗して、死ぬほど安直な作品になることも、もちろんあります)

見慣れた「初め」は、観客にたやすく物語の前提条件を理解させます。だからこそ「だいたいこうなるだろう」と観客に思わせておいて、急に違う「過程」に入って驚かせたりする、など、観客をミスリードすることもできるはずです。

よく知った「終わり」は、観客に「ああ、はいはい」と思わせてしまう危険性をはらんでいます。しかし、安心感あるラストというものはいつの時代も好まれるものです。波乱万丈の「過程」からいつもの「終わり」に入れば、観客は言い様のない安堵感を覚えてくれるでしょう。

この面白い変化の過程を生み出す上で欠かせないのが、綿密な構成です。

自分なりの構成を持つ

よくできた構成というものは、いくらでも応用が効くものです。今、現在、描かれる物語のほとんどは、よく知られた定番の構成表層を取り替えることで作られている、といっても過言ではないでしょう。「ロミオとジュリエット」の変形など、いったい何作品存在するでしょうか? これはいわば、将棋の定石を知るようなものです。

だから、たくさんの名作を知り、たくさんの定番の構成を持っておくことは重要です。逆にもし、自分だけの構成が作れたら、これは貴重な財産になります。ぜひたくさんの定石を学びながら、自分好みの構成を探してみてください。

カタルシス

カタルシスとは、鬱積したものが開放される快感、とでも言えばいいでしょうか。雑な説明をすれば、温泉に入った時の「あー…」という声です。(笑)もう少し細かい説明をすると、主人公が自らの内面と向き合い、壁を乗り越え、開放された時に、見ている観客も同様の解放感に浸ること、です。

カタルシスは大きければ大きいほど、満足感は高くなります。観客をどんな状況に追い込んでおいて、どういう解放のさせ方をすれば気持ちいいか…。これは観客をどれだけコントロールできるかによります。

主人公の解放と、観客の解放の同期作業。これはどれだけ考えても、尽きるものではありません。納得するまで何度でも、考え、描き直すべきです。

プロットは、その都度変える

さて、プロットについてはここまでです。ですがプロットは、一度書いたら終わりというものではありません。実際の執筆に入ってからも、何度も何度も立ち返り、時に書き換え、脚本と同時に何度もアップデートされていくものです。

執筆に夢中になりすぎてプロットがおざなりになると、何を書いているのかわからなくなり、ぼやけた物語になりがちです。プロットは常に頭においておき、何度も何度も確かめましょう。

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