テーマとは何か?
脚本を書く時に、テーマという言葉がよく使われます。テーマという言葉を、僕自身は「その脚本の全体を通してお客さんに伝えたいこと」と定義しています。
- 自分はお客さんに何を見せたいのか。
- 何を伝えたいのか。
これを明確にしておくことは、脚本を書く上で一番最初にやらなくてはならない、最も重要なことです。
しかし、意外にも多くの人がこれを明確に定めることなくなんとなくシーンを書き始めます。なんとなく書いて、その結果「これはこういうテーマの話だね」と後付けするのです。もちろん、脚本の書き方などいろいろですから、それもまた方法論です。ですが、書き慣れていない人ほど、テーマはしっかりと定めておいた方がいいと、僕は感じています。
テーマはコンパスです。書き手は、脚本の中で何を書いてもいいのです。それはつまり、何を書いていいのか分からない、ということでもあります。この「何を書いていいか分からない」状態は、何度か書いたことがある人にとって、なじみのある状態だと思います。僕もしょっちゅうあります。その時、向かうべき指針を与えてくれるのがテーマです。
テーマは(最初は)適当に考える。
しかし、だからといってテーマを定めるにあたって、最初から慎重に考えすぎることはありません。まず、どんなことを書きたいのか、漠然と考えましょう。この「漠然と」が実に重要です。
テーマを定めるための入り口は2つです。
- 自分が今、何に関心を持っているか?
- 世間が今、何に関心を持っているか?
自分か世間の関心を持っていることを、たくさんピックアップします。
その中から、「これだったらこういうシーンが出来るな」というように、シーンが2つ、3つ、パッと思いつくものを選びます。パッと思いつくということは、それだけ書きやすい、ということです。もちろん、何も思いつかなくても、どうしてもそれをやりたい、という関心事があるのでしたら、それでもOKです。
たとえば今(2010年6月)、基地問題が取りざたされていますので、なんとなく日米同盟や戦争のことを書こうかな、と思ったとしましょう。最初に言った通り、ここでは漠然とで構いません。この時点では、どういうテーマにも変化していけるように決めきらない方がいいのです。そしてここから、この漠然としたイメージを明文化していきます。
テーマは文章で考える。
では、明文化とはなんでしょう? テーマは単語ということはあり得ません。たとえば、「テーマは「愛」です!」みたいなことは、セールストークとしてはありかもしれませんが、実際の脚本を書く上ではそのようなことはない、と思ってください。
先ほど、なんとなく戦争について書こうと思いました。「戦争」や「日米同盟」という単語だけではテーマになりませんので、戦争の何を描くのかを考えます。
——では「戦争の悲惨さ」ではどうでしょう?
それもまだ漠然としています。書きようがありすぎて、明確な指針にしづらいです。
——「悲惨な戦争は、まだこの世にある」なら、どうでしょう?
これならなんとかテーマになりそうです。この“まだ”の部分がドラマになる予感がします。あるいは「この世に必要な戦争はあるのか?」もテーマになりそうです。ある、という側と、ない、という側で対立を生めそうです。
つまり、このテーマならこういう芝居が書けるな、というイメージを持てるテーマが必要なのです。そのためには、テーマは文章でなくてはなりません。個人的には、疑問形の方が登場人物同士の対立を生みやすく、芝居を書きやすくなると考えています。
しかし気がつくと、戦争のことを考えているうちに、日米同盟の部分は消えていってしまいました。それはそれで構いません。自由に発想の赴くままに考えましょう。「漠然と」と言ったのは、その自由な発想のためにです。ここでもう一度考えます。「日米同盟」のニュアンスを足すか足さないか。いらない、と思ったら、このまま進みましょう。足したい、と思ったら、もう一度考え直してみましょう。
「悲惨な戦争は、まだこの世にある」→ では今ある戦争とは何か?
と考えた時に、アメリカがアフガンで戦争を続けている現状があります。ここからニュアンスを足すことが出来るかもしれません。
「この世に必要な戦争はあるのか?」
オバマ大統領はノーベル平和賞受賞の際、必要な戦争はある、と言いました。ここからニュアンスを足すことが出来るかもしれません。
このように考えたテーマにニュアンスを足すことも出来ますし、一から考え直しても構いません。納得のいくテーマが決まるまで、何度も何度も行ったり来たりすればいいのです。最初からカチカチに考えていると、その柔軟な発想ができません。
漠然と。柔軟に。
これは脚本を書く時に常に必要な感覚です。
テーマはたくさんの要素で。
最初に、関心事をたくさんピックアップすると言いました。そして先ほど「戦争」と言う関心事から生まれたテーマに、「日米同盟」という関心事を足しました。他にも関心事があれば、いくつでも足していきましょう。その方が、より「深い」テーマになります。
一つの文章にたくさんのニュアンスを足していく。
これはセリフを書く時にも共通のことですが、脚本の根幹になるテーマですから、深くできるだけ、深い方がいいです。その方が、後で全体の構成を考えるとき楽になります。なぜなら、書かなくてはならないことが増えるからです。
テーマとはコンパスだと言いました。脚本家にとって一番辛い状態は、何を書いていいか分からない状態です。あれも書かなきゃ、これも書かなきゃ、の状態の方が楽なのです。そのためにも、テーマはなるべく「深く」しましょう。