3. 必要な役割は何か?

脚本における必要な役割とは何か。

これから「役割」というものについて説明していきます。たぶんこの「役割」という言葉は、劇作家(脚本家)によっていろんな単語を使っていると思います。僕はここでは、「役割」という言い方をします。

脚本における役割とはなんでしょう?
キャラクター設定ということではありません。先ほどの起承転結でいうならば、「日本人を戦場に連れてくる」役割というのがあります。

その役割を果たすものは、たとえばこの日本人が記者で、取材で出かけたのであれば、「上司」というキャラクターかもしれないし、「仕事」と言う抽象的なものかもしれません。ゲリラにさらわれたとするならば、「ゲリラ」というキャラクターかもしれませんし、「主人公の少年」かもしれません。あるいは、本人が戦争に関心を持って自ら出かけたのであれば、「自分自身」かもしれません。

また別の役割として、「主人公に日本人を殺させる」役割というものも存在します。先ほど考えた起承転結とは違いますが、だれか悪人が主人公に「あいつを殺せ」と吹き込むのであれば、その悪人が役割を担うことになります。あるいは銃の暴発であるとするならば、「銃の故障」が役割を担います。ゲリラ同士の抗争に際し、思わず撃ってしまったならその「抗争」か、あるいは抗争を起こしたキャラクターということになります。

つまり「役割」と「それを何が担うか」は別物です。「だれ」が担うか、ではありません。「なに」が担うか、です。役割を担うものは、キャラクター(人間)とは限らないからです。

まとめておきましょう。

役割 理由 それを担うもの
「日本人を戦場に連れてくる」 取材でやってきた 上司・仕事
ゲリラにさらわれた ゲリラ・主人公の少年
自分でやってきた 自分・仕事
「主人公に日本人を殺させる」 悪人に吹き込まれる 悪人
銃の暴発 銃の故障
抗争 抗争・抗争を起こした人

役割をたくさん考える。

この役割もたくさん考えます。大きな役割、小さな役割、とにかくたくさんです。こんなのどうでもいいよね、と思うようなことも、リストアップしましょう。

例でいうと他にも…

「少年と日本人を出会わせる」役割
「少年に戦いのない世界を教える」役割
「少年に、日本人がいい奴だな、と思わせる」役割
「少年と日本人の心を通じ合わせる」役割
「銃って嫌だと思わせる」役割
「大きな戦いを起こす」役割
「戦いをためらわせる」役割

などなど、いくらでも出てくるはずです。この時、先ほど考えた起承転結にとらわれる必要はありません。先ほど考えたのは大ざっぱな起承転結ですから、ずれたり変わったりしてしまっても構いません。ストーリーなど、この時点ではいくら変わってもいいんです。あれもありそうだな、これもありそうだな、という具合に、なるべくたくさんあげていきましょう。

大きな役割・小さな役割

役割には大きな役割と小さな役割というものがあります。先にあげた「主人公に日本人を殺させる」役割というのは、物語を大きく動かす大事な役割です。主人公の心情も物語も大きく変化します。こういうものを大きな役割といいます。

それに対して「日本人を戦場に連れてくる」役割というのは、ただの環境の変化に過ぎず、心情の変化は大きくありません。たとえば仕事でやって来ただけ、では、心の動きも物語の動きもありませんね。この場合、小さな役割になります。

しかしながら、もし主人公の少年がこの「日本人を戦場に連れてくる」役割を担うとするならば、主人公と日本人の出会いを生むことになります。ゲリラに襲われたことで日本人の心情も大きく動くでしょう。主人公の方も、初めて出会う平和な世界の人間ということで、なにがしかの変化を持つはずです。その場合には、これは大きな役割とも言えるでしょう。役割はその担い手と果たし方で大きくも小さくもなるのです。

大きな役割は心情も物語も大きく動きますから、書き手はついついそこにばかり目をやりがちです。しかし、「日本人を戦場に連れてくる」役割も「仕事」が担うのと「自分」が担うのとではニュアンスが大きく違います。

<仕事なら…> 仕事でたまたまやって来た? 怖がりながら嫌々やって来た?
<自分なら…> 自分で思い立って、理想に燃えてやってきた? 自分を変えたくてやって来た?

小さな役割には、実は物語の細部を詰める大事な要素があります。小さな役割こそたくさんピックアップして、それをだれに担わせるかあれこれ考えることで、物語の幅が広がります。
一方で大きな役割というのは、物語の芯を決める大事な要素ですから、慎重に練り込む必要があります。が、逆にその担い手が限定されてしまう分、発想を膨らませる役には立ちにくい一面もあります。

小さな役割で発想を広げ、その中から大きな役割を見つけ出し、物語の芯を定める。
これが役割の持つ重大な仕事です。

役割の担い手はだれか。

ここで一つ注意があります。先にも書いたように、今考えている起承転結はあくまでも大ざっぱなものです。一番危険なことは、それにとらわれることで、発想が狭められることです。ある役割を考えた時に、「この役割だったら、この人が担う」と決めつけてしまうと、新しいアイデアが出てきません。必ず他の手がないか、何パターンも考えることが重要です。

たとえば「少年に戦いのない世界を教える」役割。普通に考えたら、これは「日本人」が担うはずです。しかし、平和な世界の話を聞かされても、主人公があくまでも日本人に反発しているパターンもあるはずです。その時に別のもの…たとえば日本人が記者だとしたら、持っていそうな「写真」とか「カメラ」とかに役割を担わせられないでしょうか。

  • 写真にきれいな風景が写っている?
  • そこに写っている一輪の花が心を動かした?
  • かつてここに来て仲良くなったカメラマンと同じカメラだった?

あるいは「主人公の母親」とかに担わせられないでしょうか。「親友」とか「恋人」とかでもいいかもしれません。この担い手はあり得ないだろう、と思えるものの方が、意外に物語をおもしろくしてくれます。とにかく、たくさん考えましょう。

役割を考える順番は?

大ざっぱに解説してきましたが、最後にやることをまとめておきましょう。

  • 先に考えた起承転結から、必要な役割をピックアップしていきます。
  • この時、起承転結にとらわれず、なるべく発想を広げ、たくさんの役割を考えます。
  • 次に、その担い手を考えます。
  • これも起承転結にとらわれず、たくさんの担い手を考えます。

これだけです。

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